本日は、梅田望夫氏の「ウェブ進化論」についてお話ししたいと思います。
このウェブ進化論は私としては、近年読んだネット関連書籍の中で一番おもしろかった本でした。
ただし少し難しくて、おそらく多くの経営者が、「内容は面白いんだけど、我が社にはあまり関係ないね」という風に感じたのではないかと思いますので、
「経営者から見たウェブ進化論」
と題して、本書のエッセンスを要約してみました。
なお下記のサマリーはあくまでも私の独断であり、梅田望夫氏の見解と異なっているかもしれない点、あらかじめご了承下さい。
なお本稿の対象読者は、「日本国内の一般中小企業の経営者」を想定しています。ネット企業の経営者や大手IT企業の経営者には下記コメントは当てはまりませんのでご留意下さい。
また、下記文書中「黒文字」は本書の要約、「赤文字」部分は私の補足説明です。
次の10年への三大潮流として、下記3つが重要
インターネットの真の意味は、不特定多数無限大の人々とのつながりを持つためのコストがほとんどゼロになったこと。
経営的にいうと、インターネットを利用することで、顧客や取引先とのコミュニケーション費用が、限りなくゼロになるということです。
「ムーアの法則」によると、あらゆるIT関連コストは、年率30〜40%で下落する。そのため、次の10年で、ITに関する必要充分な機能を、誰もがほどんどコストを気にしないで手に入れられる。
このことを「チープ革命」と呼ぶ。
年率30%でIT関連コストが下落すると、10年では約17万分の1に価格が下落します。(0.3の10乗)。
経営的に言うと、IT関連コストが10年で17万分の1に下がる(現在2,000万円かかるITコストが10年後には約100円になる)訳ですから、これを前提にして経営戦略を考えることが重要になってきます。
何か素晴らしい知的資産のタネがネット上に無償で公開されると、世界中の知的リソースがそのタネの周囲に自発的に結びつくことがある。
モチベーションの高い優秀な才能が自発的に結びついた状態では、司令塔にあたる集権的リーダーシップが中央にいなくとも、解決すべき課題に関する情報が共有されるだけで、その課題が次々と解決されて行くことがある。
その結果、スペックもない、製品計画や製品戦略もない、開発工程管理もリリース計画もない、インターネット上のバーチャル大規模開発プロジェクトから、現代で最も複雑な構築物が生み出され、しかも日々進化を続ける。
サービス業や小売業では、ここで述べられているオープンソースの概念は直接関係ないと思います。
ただし製造業に関しては、インターネットのボランティアを巻き込んだ共同研究や共同開発の可能性が広がっています。
これからの地殻変動の本質は、「ITとネットワークの価格性能比が臨界点を超えたことで、私たちが想像も出来なかった応用が現実のモノとなる時代が到来すること」である。
「情報革命」では、「情報スーパーハイウェイ」に代表される「物理的なITインフラ」が構築されると考える人が多かった。
しかし実際は、「ITインフラ」ではなく、「I(情報)インフラ」が構築され、その結果「情報そのものに関する革命的変化」が起ころうとしている。
そして「Iインフラ」の本質は、インターネットのあちら側に作られる「情報発電所」ともいうべき設備である。
ここの部分がウェブ進化論の骨子だと思います。
「新しい時代の到来」、そして日本お得意の「設備投資を中心としたITインフラ」ではなく、「情報」そのものを蓄積した「I(情報)インフラ」が「新時代」の命運を握ること、これを恐らく梅田望夫氏は伝えたかったのではないでしょうか。
さて、中小企業経営者、IT関連ではない一般の中小企業の経営者は、こうした「地殻変動」にどう対処して行けば良いのかがポイントになるわけですが、この点はまた日を改めて考えてみたいと思います。
技術進化の大きな流れの中で、ネットの「こちら側」(実社会)から「あちら側」(ネット社会)へのパワーシフトが確実に起きてくる。
「あちら側」は、インターネット空間に浮かぶ巨大な「情報発電所」。いったんその巨大設備たる「情報発電所」に付加価値創造のシステムを作り込めば、ネットを介して均質なサービスをグローバルに提供できる。
もし多くのユーザーが、自分の情報を「こちら側」に置かずに「あちら側」に置く方が色々な意味で良いと確信すれば、産業界における情報の重心は移行していく。
日本の「あちら側」についての認識は、「こちら側」にイノベーションを起こすために必要な仕掛けという程度。しかし、付加価値が順次「あちら側」にシフトして行くと、「こちら側」のモノはコモディティ化して行き、競争力を失う。
例えば、GoogleのGmailは、メール情報(データ)を「あちら側」に置くサービス。ひとたび情報をGoogleの配下(あちら側)に置けば、今後「情報発電所」の機能を増強することで、様々な新しいサービスを自在に付加できる。
この部分は、日本の「IT業界」に対する問題提起なので、一般の中小企業さんとしてはピンと来ないと思います。
ただ「情報を手元のパソコン(こちら側)に置かないで、インターネット上に用意されたデーターベース(あちら側)に置く」というサービスが今後徐々に増えてきますので、こうしたサービスを活用して、自社の業務運営を改善できないか、色々と工夫していきましょう。
ベストセラーを、1,000部で5ミリの棒グラフで描いてみる。ベストセラーは高さ10メートル。一方ほとんど売れない本は、高さ5ミクロンで横に1km以上。
こうした形状について、ベストセラー部分を「恐竜の首」と呼び、おしりの部分を「ロングテール」と呼ぶ。
従来の出版社はベストセラーの配給に力をいれる「恐竜の首」派。一方、アマゾンは実店舗でほとんど売れていなかった本にも力を入れた「ロングテール」派。
またグーグルも、ロングテール追求企業。グーグルの広告サービスは、広告主のロングテールと、メディア(広告掲載サイト)のロングテール部分をマッチングさせて、広告に過去一度も関与したことがない人(広告主、およびメディア(個人サイトのオーナー))を対象とした新市場を創出した。
参加自由のオープンさ(セルフサービス、単価が安く、成果報酬型)と自然淘汰の仕組み(成功した人は続ける)をロングテール部分に組み込むと、未知の可能性が大きく顕在化し、そこが成長していくことを明らかにした。
大企業は80:20の法則。リアルの大企業では、ロングテールに関わっても、固定費を賄う売上は生まれない。例えば電通は「恐竜の首」派で、大手の広告に注力。
一方グーグルは「ロングテール」派で、個人を含む極小事業体と極小メディアのニーズを自動マッチングする「情報発電インフラ」により、新しいロングテール市場を創出した。
現在、ロングテール追求者が産業界のルール破壊者となり、「恐竜の首」の上顧客を徐々に奪いつつある。
少し長めに引用しましたが、本書(ウェブ進化論)の中で、一般の中小企業に最も影響があるのが、この「ロングテール」の部分です。
中小企業は、大手ネット企業が提供するロングテール販売の仕組みに乗せて、自社のロングテール商品を販促することができるようになってきました。
もちろん自社でインターネットを活用して、自社のロングテール商品を販促することも可能です。
Googleは、インター上の新しい「コンピュータメーカー」を目指している。またGoogleは、オペレーション(運用)部分に非常に力を入れている。コンピュータメーカーとして、新しいシステムアーキテクチャに基づく「圧倒的なコスト構造」を実現。
またアマゾンも、マイクロソフトのようなテクノロジー企業を目指している。ネット上の小売業者がアマゾンのテクノロジーインフラに寄生しなければ生きていけないような世界を作ろうとしている。
「アマゾンウェブサービス」で、アマゾンの膨大な商品データーベースを公開し、誰でもビジネスを起こせるようにした。このサービスを利用してアマゾンの商品を購入した場合、アマゾンは15%の手数料を手に入れる。
つまりアマゾンは、単なる小売業者から、「システム利用料」として商品売上の15%を請求する、eコマースのプラットフォームベンダーへ進化した。
一方、楽天・ライブドアは、生活密着型サービス産業。
それに対して、グーグルやアマゾンは、テクノロジー産業。
また、Yahooはメディア企業。人間の介在を重要な付加価値の源泉と考えている。
一方グーグルは、テクノロジーを徹底的に極めることで、メディアビジネスを全く新しいものにしたいと考えている。
グーグル社社長によると、「膨大な数の、それぞれにはとても小さいマーケットが急成長しており、その市場がグーグルのターゲットだ。グーグルは、膨大な数のスモールビジネスと個人が、カネを稼げるインフラを用意して、そのロングテール市場を追求する」
つまり、テクノロジーベンダーとして、圧倒的な低コストを武器に、ロングテール市場での新しい市場創出がGoogleの本質。
このグーグルやアマゾンが「テクノロジー企業」というのは、非常に示唆に富んだ指摘です。
取扱商品が何であれ、そのビジネス上の差別化要因をどこに求めるかが経営上の大きな判断基準となる訳ですが、少なくとも「価格」で勝負する企業であれば、こうした「テクノロジー」を活用した社内の運用体制のスリム化は、大きな要因になるでしょう。
中小企業さんの場合、直接グーグルやアマゾンのビジネスモデルを真似するわけにはいきませんが、「広告業」のグーグル、「書籍販売」のアマゾン、という表面的な理解ではなく、その裏にある「テクノロジーを活用」したビジネスの仕組みを参考にしてみましょう。
「チープ革命」により、個人が表現の道具を手に入れることで、「玉石混交」の膨大な量のコンテンツが発生。「石」の中から「玉」を見いだす技術が発展すれば、従来の専門家、専門メディアよりも、質の高い情報が提供される可能性。
今後は、「既存メディア」vs ネット上に無数に登場した名もなき「玉メディア」の戦いとなる。
Googleは、権威ある学者の言説を重視すべきだとか、一流の新聞社や出版社のお墨付きがついた解説の価値が高いとか、そういったこれまでの常識をすべて消し去り、「世界中に散在し、日に日に増殖する無数のウェブサイトが、ある知についてどう評価するか」というたった一つの基準で、すべての知を再編成しようとしている。
上記をひと言でまとめれば、インターネットを通じて、「知の世界の秩序の再構築」が起きる、と言うことです。
これも一般の中小企業の方にはピンと来ないと思いますが、「顧客が入手する企業情報、製品情報」という目で捉えた場合、この「知(情報)の再構築」という概念は非常に重要になってきます。
他にも様々な観点からの指摘がありますので、ぜひ本書をご一読することをお勧めします。
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